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人様の役には立つまい雑文ブログ もはや趣旨すら何処へと
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『 ゼルダの伝説~トワイライトプリンセス~ 』のPVを見てたら浮かんできた世界観。
続き期待ageということで、ここで晒しときます(´・ω・`)




「なあリュコ」
「なんだいストレ」
 それは一人と一匹が、夜の月の下で原っぱを歩いているときのことだった。
「……もう何日目だったかな」
「……三日くらい?」
「……死なないもんだねえ」
 少し言葉に詰まってから、リュコは「そうだね」と、ストレの下で言った。
 ――リュコは狼だった。ストレを背中に乗せて、のっしのっしと草を踏む。
 その体は大きくて、小さなストレがさらに小さく、豆粒みたいに見えていた。
 ――ストレはそのリュコの上で、細っこい体を前に倒し、張り付くようにぐてぐて~としていた。月明かりを明るく弾く銀色の長い髪が、まるで毛布のように後ろから体を包んでいる。瞳は血のようにらんらんと赤い。色白の顔は可愛らしい作りだが、今はげっそりしていた。三日も何も食べていない証拠だった。
「……あのさあ」
 ストレは刺々しく言い放つ。
「お前、今は狼じゃん?」
「うん」
「だったらさあ、何かこう、さあ……あたしの為に動物を狩ってくるとかさあ……」
「ええ……そんなことできないよ……」
「何でさ」
「だって、その動物が可愛そうじゃないか」
「おま……。お前だって肉くらい食べるでしょうが」
「食べるけども、やっぱり直接狩るっていうのは……」
「いくじなし」
 ストレの一言に、リュコは「うっ」と喉を詰まらせた。
「も、もう少し我慢してよ。ここを超えれば、確か町があったから」
「昨日の朝もそんなこと言ってなかった?」
「ごめん言った。……こんなに遠かったなんて思わなくて」
 昔、父さんに連れられて一度行っただけだから……とリュコは言い訳する。
「次の町に言ったら、今度は多めに食料漁るのよ」
「うん」
「ケチケチしないで」
「うん」
「あるお金は全部使うつもりで」
「うん……うん? いやいやっ、全部はダメだよ。他にも調達するものがあるでしょう。マッチも残り少ないし、ランプ用の獣脂も買わないと。それに買ってばかりもいられないよ。この先、どうにかしてお金も稼がないと……」
「あー面倒くさい。なんなら全部盗んじゃおうか」
「いやいやっ、もっとダメっ」
「じゃあ恵んでもらおう」
「えっ?」
 どうやって? とリュコが訊ねると、ストレはむくりと起き上がった。12歳にしては張った胸元が、夜闇と同化する紺青色のローブを押し上げている。
「おねだり作戦さ」
「おねだり?」
「そう。そこで一つ問題があるわ」
「何?」
「そのおねだり役を、お前にするか、あたしにするか」
「ストレの方がいいんじゃない? その……」
 可愛いし、ともごもご喋るが、ストレは聞いちゃいなかった。
「お前の場合は狼だから、残飯をもらう確率が高いでしょ。それに消耗品も分けてもらえないし。昼に行ったとしても、小汚いガキに恵んでくれるヤツなんていやしないわ」
「小汚いガキって……君の方がガキでしょう。僕より二つも年下のくせに」
「小汚い、ってところはいいのね」
 なんて言いつつ、ストレはリュコの後頭部をはたいた。
「あたしの場合、そりゃあこんなにも可愛らしい少女なのだから、面白いように貢がれるに決まってるわ。貢がないヤツは町中の人間から袋叩きにされるな、絶対」
 得意気に体を反らし、左手を胸元に、右手は天に向かって伸ばしながらストレは語る。
「あたしの虜にならない女はいない。あたしに欲情しない男はいない。そんなヤツ等は春が過ぎたジジイババアか、アレが使い物にならない駄目人間に決まってる」
「あんまり人を悪く言わないほうがいいよ」
 そんなに驕ると痛い目をみるよ、とも言いたいリュコである。
「ふふ、お前も欲情したくせに」
「してないよ」
「機能不全め」
「はいはい。……痛い!」
 耳を齧られた。
「ぺっぺっ、ああ、夏は嫌だなあ。お前ちょっとは自分でブラッシングしなよ。毛の生え変わりがひどいぞ。見ろよ、あたしの服が毛だらけだ」
「自分でブラッシングって、この体見てそういうこと言う?」
「まあそれは置いといて」
「ひどい」
 構わずストレは続けた。
「あたしがおねだりすれば一番簡単なんだけど、そうもいかない理由があるの」
「……理由?」
 意味を測りかねて、リュコは訊ねた。
「田舎者め。お前どこの田舎者だ」
「君、知ってるじゃない。君と一緒にそこから来てるんだから」
「じゃあ馬鹿だな。馬鹿犬」
「狼って言ったのは君だろ?」
「どっちでもいいわアホ」
 今度は横腹を木靴で蹴る。
「痛いなあ……」
「痛くない。男の子は泣かない。――話進まないじゃん」
「僕は進めたいんだけど、ストレが……あひんっ!」
「進めてもいいかな?」
「いいっ、いいよ、進めてよっ」
 ふん、と不遜な顔で、ストレはリュコの尻尾から手を離した。リュコは身震いして、呼吸を整える。
「あたしは銀色の髪と血色の瞳を持つ〝悪魔の末裔〟。お前が住んでた地方じゃ単なる〝異人〟だけど、地図で見る限りじゃ、この草原から西向こうはロウゼリア修道会の教区。ロウゼリアは〝悪魔狩り〟が盛んだから、あたしが町中でこの髪と瞳を晒そうもんなら、一巻の終わりってわけ」
「あ、ああ……そうか。そういえばそうだったね」
 旅立つ前、村長にそのことを聞かされたのをリュコは思い出した。
 難しい大人の社会の仕組みは分からないけれど、ロウゼリア修道会は、その教区内にいる〝悪魔の末裔〟しか捕まえることはできないらしい。
「あれ? だったら、その教区に入らなきゃいいんじゃないの?」
「お馬鹿。あいつはその教区にいるっていう噂なんだから、入らないと殴りこめないでしょ」
「あ、そっか」
「くそう……あの魔女……思い出すだけでも腹立たしい。教区に隠れるなんて……卑劣なっ」
「悪魔狩りはあるのに、魔女狩りはないんだよね。ロウゼリア修道会って」
「北方のアーツハウゼン宗教会が盛んね、魔女狩りは。んなところには間違っても行きたくないわ」
「……なんだか難しいなあ」
「ふふ、お子ちゃまにはね。……ああ、それにしても」
 くてん、とストレは再びリュコの背中に這いつくばった。
 リュコの敏感な狼の鼻を、彼女の甘い匂いがふわりとくすぐった。
「……喋ったら、もっとお腹減ったわ」
 くるくる、と可愛らしくなるストレのお腹。
「……僕の方が疲れてると思うんだけど」
 ぐるるるる、と唸り声のように鳴るリュコのお腹。
 ―― 一人と一匹が次の町にたどり着き、空腹に物をつめることができたのは、翌日の夜のことだった。

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